水曜と金曜の週に二日、金宮(かなみや)先生には数学と英語を教わっている。第一印象は、高学歴で礼儀正しい好青年。両親が信頼するのは当然だろう。
 いざ始まって三回目には正体を現し、四回目になる今日の授業でこの有り様だ。

「出来ました」

 最後の問いを記入し終えてプリントを渡す。読んでいた漫画をベッドに伏せ、さらさらと赤丸をつけ始めたかと思うと、三十秒もしないうちに返された。
 不真面目な態度からは想像出来ないほど頭が良く仕事が早い。

「全問正解! 今日の授業終わっちゃったなぁ。あと十五分何したい?」
「特に何もないですから、帰ってもらって構いませんよ」
「それは契約上出来ないんだよなぁ。一応、授業ってのしないと」

 軽い口調で話す金宮先生を見ながら、ため息を吐く。
 勝手な所だけ律儀(りちぎ)だ。まあ、時間が過ぎて行くのを適当に待てばいいだろう。
 教科書とノートを片付けていると。

「じゃあ君は優等生だから、特別授業してあげよっか?」
「……特別授業?」
「学校の先生じゃあ教えてくれないようなこと」

 いかにも胡散臭(うさんくさ)いというか、妙に背中が(かゆ)くなるような台詞。
 不信感を(あら)わにすると、彼はにやりと口角を上げて手招きをしてくる。
 仕方なしに耳を近付けたら、鼓膜あたりにフーッと息の風が吹いた。思わず耳を押さえて体を後退させる。

「ちょっと、な、何するんですか?! 無理、そういうの無理ですから!」

 体中の毛穴という毛孔(もうこう)が収縮して、あちこち鳥肌が立っている。危機を感じてか、体は無意識に身構えていた。

「ごめんごめん、ちょっとした悪ふざけ。俺もそっち系の趣味はないから安心しな?」

 ヘラヘラと笑いながら、金宮先生が肩を組む。
 適当なことを言って、何も考えていないように見えるけど目の奥は(するど)い。全く読めない人だ。