「同じ夢を見るって表現が正しいのか。それとも、夢が侵食されていると捉えるのか」
「どういう意味?」
「他人の夢に入り込むことが、不可能じゃないって言ってるの」
「……それって、現実で? SF小説じゃなくて?」

 本を開いたページに、明晰夢(めいせきむ)と書かれている。
 夢だと認識しながら、自分の行動がコントロールできる状態にある夢のことだ。

「たしかに、今は架空の物語に過ぎない。でも、実際に私たちの身に起こり得ないことが起こっているのも事実でしょ」

 タイムリープに夢の世界。どちらも言葉で説明したところで、理解してくれる人はほぼいないだろう。
 本をパタンと閉じて、さらに僕の前へ置くと、

「今度またおかしな夢が現れたら、私を出してくれないかしら」
「……出すって、夢に? どうやって?」
「梵くんの夢は特殊。もし行動をコントロール出来るなら、念じた人物を出せるかもしれない。そしたら、夢を共有することが出来る可能性があるわ。日南先生の時と同じように」

 蓬の夢を見ていた時、意識がはっきりしていた。現実ではないと知りながら、向かう方向や発言をコントロール出来た。
 反対に、動けと命じても動けないこともあった。全てが思い通りになるわけではないけど、可能性はゼロじゃない。

「……やってみるよ」

 根拠のない約束。それをしてどうなるかも分からない。想像を積み上げて、不安を紛らわせているだけ。
 だけど、何もないよりマシだ。
 手の中にある『シンクロニシティ』という文字を見るだけで、綺原さんの落ち着いた眼差しを思い出すだけで、大丈夫だと思える。

 再び夢を見たのは、それから三日後のことだった。