半袖のカッターシャツに手を通して、制服のズボンを履く。登校日でないにも関わらず、僕は夏休み中の校門をくぐった。
 運動部がグランドを走るなか、校舎へ足を踏み入れる。そのまま屋上へ向かうと、僕を待つ背中があった。

「来てくれないかと思った」

 長い髪を耳にかけながら、にこりと笑う日南先生。
 後夜祭で約束をすっぽかしてから、顔を合わせづらくてまともに話せていなかった。避けているのを知ってなのか、夏休みに入る前日、屋上(ここ)で会えないかと言われていたのだ。

「あの、すみませんでした。後夜祭の日、行けなくて」

 今更謝るのは違う気がするけど、いつまでもうじうじ黙っているのもいけない気がして。

「いいのよ。何かあったんだろうなって思ってたから」

 どんな反応が来るのか身構えていたけど、笑ってしまうくらいあっさりしていて、普通だった。
 気まずい空気をまとっていたのは、自分だけだったのだ。それが逆に虚しかったり。

「でも、理由くらい教えてくれても良かったのに」
「……えっ?」

 完全に油断して、風船の空気が抜けるような声が出た。

「来なかった理由、苗木くんから聞いたよ。綺原さんのこと探してたんだってね」

 振り返った日南先生に、どくんと脈が波打つ。
 人形みたいに大きな目をして、それでいて瞬きすらしない。じっと僕を見据えながら、微かに笑みを浮かべて歩み寄る。

「あの、せんせ……?」

 一歩下がると、一歩詰めてくる。いつもの日南先生ではないようで、瞳に影が落ちて見えた。
 浮気した恋人を責め立てるみたいなイメージ。

「どうして彼女を優先したの? 先に約束してたのは、私の方なのに」
「……すみませ」

「ねえ、直江くん。一緒に飛ぼっか」