消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

 一七四センチの僕より十センチほど低い日南先生の目線が、目の前に近付いて来て止まる。面と向かい合うと、やましい気持ちはなくても、なんだか妙な気分だ。

「先生、体大丈夫ですか?」
「……体?」
「あの、体調のことです。最近、具合悪かったりしてないかなぁ……って」

 たしか、持病が悪化して亡くなったはずだ。本人を前にして、考えていることが複雑だけど。

「先生は健康人間だから、特に問題ないわよ。心配してくれてありがとう」
「でも、持病は……?」

 言いかけて思わず口を(つぐ)む。その会話をしたのは、もっと後日のことだ。
 首を傾げながら、ふふっと彼女は目を細くして。

「持病なんてないわ。風邪すらほとんど引いたことないんだから。もしそんな噂があるなら、直江くんが訂正しておいてね」
「えっと……はい」

 美術室を出る時には、僕の方が混乱していた。一体どうなっているんだ?
 八月二十一日、日南菫の葬儀は行われた。それは、幻などでなく事実だ。

 持病が悪化していると言っていたのは本人だし、彼女の母親からも病で亡くなったと聞かされた。知られたくなかったのだとしたら、もっと動揺してもいいはずだ。

 もしかして、彼女が死なない世界線へ飛ばされて来たのだろうか。