「本当に大丈夫か。遣いのものを走らせるのではダメなのか」
眉を細める浩宇王が心から心配をしていることがわかり、孫麗は微笑み返す。
「申し訳ございません。しかし、どうしても雪華様にお会いしたいのです」
今日は雪華様が出家された寺へ訪問する。俗世を捨て、尼になった人物に会うことも、皇后が宮廷を離れることも前代未聞のことだった。
しかし、孫麗には雪華様に自分の口で伝えたいことがたくさんあった。
自分のこと。
白梅のこと。
浩宇王のこと。
たとえ身体は死んでいても、自分の目で見て、耳で聞いて、心で感じた、生きた気持ちを伝えたい。
「しかしだな」
「蘇妃様!」
そこへそそくさと人をかいくぐって曹倫が近づいてくる。孫麗の前に立つ曹倫は手を揉み、必要以上にへりくだる。
「こんな奴らよりも私の方が安全に馬を引けますよ。運賃料を払っていただければ!」
えへへへ、と笑う曹倫へ孫麗は優しく微笑み、浩宇王の元へ振り返る。
「浩宇王、少しの間、目を瞑っていただけますか? 他の者たちも」
浩宇王を始め、そこにいたみんなが不思議そうに目を瞑る。孫麗は素早く息を吸い、ゆっくりと息を吐くと拳をぎゅっと強く握る。
「よくもあの時、白梅を泣かせたわね」
「へ?」
「オラァ!!」
孫麗は腕を振り上げ、曹倫の頬をぶん殴る。痩せた曹倫の体は枯れ葉のように宙を舞い、天井下の積もった雪に身体が埋まった。
「はー、すっきりした」
「心配は無用か」
こめかみを掻きながら笑う浩宇王に礼をして孫麗は馬車へ乗り込む。
いざ、出発。
馬車から外を覗くと一面の銀世界が広がり、雲ひとつない青空が広がっていた。
眉を細める浩宇王が心から心配をしていることがわかり、孫麗は微笑み返す。
「申し訳ございません。しかし、どうしても雪華様にお会いしたいのです」
今日は雪華様が出家された寺へ訪問する。俗世を捨て、尼になった人物に会うことも、皇后が宮廷を離れることも前代未聞のことだった。
しかし、孫麗には雪華様に自分の口で伝えたいことがたくさんあった。
自分のこと。
白梅のこと。
浩宇王のこと。
たとえ身体は死んでいても、自分の目で見て、耳で聞いて、心で感じた、生きた気持ちを伝えたい。
「しかしだな」
「蘇妃様!」
そこへそそくさと人をかいくぐって曹倫が近づいてくる。孫麗の前に立つ曹倫は手を揉み、必要以上にへりくだる。
「こんな奴らよりも私の方が安全に馬を引けますよ。運賃料を払っていただければ!」
えへへへ、と笑う曹倫へ孫麗は優しく微笑み、浩宇王の元へ振り返る。
「浩宇王、少しの間、目を瞑っていただけますか? 他の者たちも」
浩宇王を始め、そこにいたみんなが不思議そうに目を瞑る。孫麗は素早く息を吸い、ゆっくりと息を吐くと拳をぎゅっと強く握る。
「よくもあの時、白梅を泣かせたわね」
「へ?」
「オラァ!!」
孫麗は腕を振り上げ、曹倫の頬をぶん殴る。痩せた曹倫の体は枯れ葉のように宙を舞い、天井下の積もった雪に身体が埋まった。
「はー、すっきりした」
「心配は無用か」
こめかみを掻きながら笑う浩宇王に礼をして孫麗は馬車へ乗り込む。
いざ、出発。
馬車から外を覗くと一面の銀世界が広がり、雲ひとつない青空が広がっていた。