扉から見える空。そこにあったはずの厚い雲が浩宇王の熱い想いに溶かされるように徐々に消えていく。
　すでに夜は明けており、そこには白く、大きな太陽があった。久しぶりに宮廷に朝日が降り注ぎ、朝日殿はその名を表すように光り輝き、その輝きは孫麗たちがいる宝爛殿にも届いた。
　その輝きは、宮廷に新しい一日を告げる光だ。

　それから数ヶ月の時が流れた。
　頃は冬。
　昨日まで雪が降り続いていたが、今日は止み、宮廷を白い絹が覆ったように雪が積もっている。
　息が白く凍える朝、孫麗は白梅に化粧をしてもらっていた。官女になった白梅の横には年下の侍女たちが、化粧道具の準備をしている。
　侍女の一人が筆を白梅に渡しながら頬を膨らませる。
「私も蘇妃《そき》様にお化粧したいです」
　蘇妃とは、孫麗が皇后になり、ついた名前だ。一度死んで蘇ったことを周囲に明かし、それでいて皇后、妃であろうとする孫麗の覚悟を込めた名前だった。
「蘇妃様の前でやめなさい」
　侍女に対して叱る白梅を見て、孫麗は笑った。
「なにを笑っているのですか？」
「別に」
　紅を含んだ筆が孫麗の唇に優しく触れる。化粧が終わり、侍女たちは片付けを済ませて部屋から出て行く。
　孫麗は引き出しから耳飾りを取り出し、耳につける。
　立ち上がる孫麗を見つめ、白梅は微笑む。
「美しいですよ。孫麗お姉様」
「ありがとう。白梅妹」

　廊下に出ると前から阿蘭が歩いてくる。
　白梅は未だに阿蘭に対し苦手意識を持っているようで孫麗の後ろへ隠れ、阿蘭はそんな白梅を無視して孫麗に対し、頭をさげる。
「おはようございます」
「おはよう、阿蘭」
「子どもを産めないあなたの後を狙う皇女はいくらでもいますから」
　阿蘭の冷たく、攻撃的な口調が孫麗を突き刺す。
　確かに?屍であり肉体の生命活動が止まっている孫麗の身体では子は産めない。皇后の第一の責務は、後継ぎを産むことだ。それが叶わない孫麗に対し、大后様や他の皇女たちは孫麗が皇后であることに対し不満を抱いている。
　しかし、浩宇王は言った。自分に対しての不満も受け入れる、と。ならば私も、子どもが産めないのであれば他の形で皇后としての責務を全うし、みんなに受け入れられるように頑張るだけだ。
「くれぐれも気をつけてください、皇后様」
　だから私は、堂々とこう答える。
「いいえ、私は蘇妃。そして、孫麗よ」