「孫麗は、孫麗です。ただ、一度死んで蘇った」
 道士は一歩ずつ、孫麗の元へ歩み寄る。
「そんな人知を超えた奇跡を起こしたものを私たちはこう呼び、崇めます」
 孫麗のそばに立つと道士は再び浩宇王に向かって頭をさげた。
「神、と」
「神……」
「この国では古くより、良き王には神獣の加護を受けると言われます。まさしく孫麗が神獣となり、浩宇王へ加護を与える存在になり得るのではないでしょうか」
 大后様に向かって語る道士のすねを孫麗が拳で打つ。足を抑えて床に転がる道士の耳元で孫麗は声を殺して抗議する。
「誰が獣だ!」
「だからって殴るやつがあるか!」
「私が神様ってほんとなの?
「嘘に決まってるだろ! 庇ってやってるんだろ!」
「なんなのよそれ!」
 孫麗と道士が置いてけぼりの建物内の空気を察知し、そそくさと元の位置に戻る。立ち上がった道士は気を取り直して小さく咳払い。
「それに街にはびこる妖たちも退治しても意味がありません」
「何故だ」
「街には以前より天災や病が流行り、その影響で人々は恐れ、疑い、恨み、憎しみ、その結果、妖が生まれています。妖を退治したところで、それら陰の気をどうにかしなければまた妖は生まれるでしょう。我ら道士の間ではこんな問答をよくします。
 畏れがあって妖が生まれたのか。
 妖があって畏れが生まれたのか。
 王様はどう答えますか?」
「ただの道士が王に意見するなど……」
「母上は黙っていてください!」
「浩宇……」
 浩宇王は道士をまっすぐと見据える。
「陰の気、それは仕方のないことだ。流行病も天災も、私一人ではどうすることもできない」
「ならば諦めると?」
「いや、国としてできることは努める。流行病にかかったものには質の良い治療を。天災で苦しむ民には税の緩和に食料の配給をする。しかしそれだけでは足りない」
 浩宇王は地面に座る孫麗を一瞥し、微笑む。
「まずは知ることだ。民の陰の気を。民の声を私は聞き、知るべきだ。そして、その全てを受け入れよう。先代から変わったばかりの若く、未熟な王を民がどう思っているのか。私に対する不満から生まれた妖も、私は受け入れる」
 浩宇王は孫麗に対し、手を差し伸べる。
「人間も、妖も」
 孫麗は静かにその手を取ると冷たい孫麗の手に浩宇王の温度が伝わる。
「まとめて我が国の大切な民だ」