「これはどういうことでしょうか大后様。いえ、母上!」
 浩宇王は床を踏みしめて玉座へと歩み寄り、その上の大后様を見上げる。
「浩宇……」
 大后様は御簾を捲り上げ、姿を現した。
「謀反人の処刑は王である私が認め、刑が執行されるはずです」
「で、ですから、あなたはまだ王としての経験が……」
「私はこの国の王。浩宇王です」
 大后様は口を開けるも言葉が出ない。
 浩宇王は孫麗たちの方へと体を向ける。
「孫麗、お前の大切な妹に大変なことをしてしまった。申し訳ない」
 浩宇王は孫麗に対し頭を下げる。その行為に孫麗も、その場にいる誰もが驚き、困惑した。
 ただ一人、大后様だけはその行為に対し怒り、唇をわなわなと震わせた。
「王が部下に頭をさげるなど……、あなたはやはり王がなんたるか」
「無礼を働いた相手にはきちんと詫びる。人として当たり前のことです。私は、正しき王である前に、正しき人でありたいと思っています」
 雪華様のように。浩宇王の慈愛に満ちた瞳を見て、そのような想いが込められていると孫麗は感じた。
 ならば! と大后様は浩宇王へ凄んだ。
「では王として、その官女に対し刑を下しなさい。それがあなたの王としての初めての勅令です!」
「……わかりました」
 浩宇王は静かに、ゆっくりと孫麗に近づき、膝をつく。
 どんな刑でも構わない。ただし、白梅だけは見逃してほしい。
 そんな思いを声に乗せようと孫麗は心のうちに準備していた。
「孫麗」
「はい」
「私の嫁になれ」
「はい?」
 心の中は真っ白になった。
 白梅は何度も浩宇王と孫麗の顔を交互に見る。
「孫麗お姉様が、皇后様に?」
 大后様は足を踏み外し、落下して王の玉座に腰を打ち付けた。
「な、何をいっているのですか浩宇! その女は禍々しき妖。すぐに退治しなければ大変なことに」
「よろしいでしょうか、大后様」
 後ろで道士が膝をつき、頭を垂れていた。
「申せ」
 浩宇王が頷くと、道士は少しだけ口ごもり、諦めたように大きく息を吐いた。
「そのものは私が蘇らせた殭屍であり、退治してもしなくても何も影響はありません。しかしながら、このものは殭屍でありながら死肉を食らわず、理性を保ち、あろうことか術師である私にすら反抗します。これはもう?屍とは呼べません」
「ではなんだというのだ」
 浩宇王の問いに、道士は顔を上げ答える。