「あいつを! あいつを!」
 そこへ一枚の呪符が宙を裂き、阿蘭の胸に貼られる。
「こ、これは?」
 阿蘭は呪符に手を触れるもバチリと閃光が走る。
「符術、情心簡明。これでお前は嘘偽りがつけず、全て正直に話すようになる」
 呪符が飛んできた方向を見ると影の中から道士が現れる。
「くそっ!」
「そこの侍女は妖か?」
「違う!」
「だ、そうです。大后様」
 道士は顔をあげ、御簾の奥に向かって告げる。
「くそっ! くそ!」
 阿蘭は膝から崩れ、地面に向かってなんども拳を打ちつける。
「阿蘭。どうして、私を目の敵にするの?」
「そんなの、お前が羨ましいからに決まっているだろ!」
 顔を上げ、キッと睨む阿蘭の目には涙の膜が覆っていた。
「私は没落寸前の貴族の娘だ。一族を救うためにも皇女にならねばらなかった。だから誰よりも懸命に勤めた。皇女たちの嫌がらせにも耐え、時には汚いこともした。そんな私と肩を並べ、雪華の元でのうのうと働くお前を見ていると、心底腹がたったんだよ!」
 一筋の涙が阿蘭の頬を流れる。
「私は、お前の笑顔が妬ましい!」
「嫉妬もまた、畏れだ」
 道士は素早く足で六芒星を描き、阿蘭に向かって指をさす。
「符術、悪気昇天」
 道士の足元の六芒星が白く光る。すると阿蘭の背後から禍々しい青色のオーラが飛び出し、もがき苦しみながら空へと消えていった。
 阿蘭は気を失いその場に倒れこむ。
 道士は倒れた阿蘭から呪符を剥がし、袖へと仕舞う。
「お前が妖に取り憑かれていたなんて皮肉なものだな」
 御簾の裏から椅子が倒れる音がした。大后様は立ち上がり御簾を剥がし、姿を表した。そこにいるみんなが大后様に向かって頭をさげる。
「宮廷内に妖が存在するなどなんたる失態か。ここにいる全てのものを捕らえよ!」
 戸惑っていた兵士たちも大后様からの命令により正気を取り戻したように素早く孫麗と白梅、そして道士を取り囲む。
 孫麗は白梅の手を握り、白梅もまた孫麗の手を握りかえす。道士は袖から呪符を数枚取り出す。
 緊迫した空気が張り詰め、兵士の一人が一歩踏み出したその時。
「待ってください。大后様」
 声の方へとみんなが振り向く。
 扉の前には浩宇王が立っていた。