「嫌です」
「断るか? お前の故郷が流行病の元となっていることを大后様に告げるぞ。そうなればお前の村は焼かれ、母もみんな殺されるぞ」
 町で流行っている病は白梅の故郷から流行り始めたものだった。そのことを侍医から聞き、阿蘭は侍医を口止めし、白梅を脅したのだった。
 しかし、白梅は阿蘭の手を払う。
「していただいても構いません」
 白梅の覚悟を決めた顔つきを見て阿蘭は後ずさる。
「母は死にました」
 白梅の母は孫麗が死んだ後に、死んでしまった。それから雪華様も後宮からいなくなり、白梅はただ一人、孤独になった。
 あんな思いはもうしたくない。
 孫麗お姉様とともに、生きていきたい。だから。
「私はもう、あなたの指示は聞きません」
 眉をピクリとあげ、阿蘭はそうか、と笑った。
 すると突然、阿蘭はその場に倒れ込み、土を握って顔にまぶした。
「誰かぁ! 助けてくれー! ここに妖がおるぞ!」
 阿蘭の声がとどろき、見張りをしていた兵士たちの足音が近づいてくる。
「何をしているのですか!」
 地面にへばりつき、ニヤリと笑う阿蘭の顔に白梅は寒気を感じた。そこへ松明を持った数人の兵士がやってきた。
「どうなされた?」
 阿蘭は怯えた様子で白梅を指差す。
「こやつが私に襲いかかってきたのだ! 早く捕まえてくれ!」
「なに?」
 兵士に囲われ、白梅はどう弁解しようかと考えたが、真っ先に思いついたのは孫麗のことだった。
 白梅は静かに、両手を兵士へ差し出した。
「私は妖です。退治してください」
 兵士に連れて行かれる白梅を見て、阿蘭は密かに笑った。