白梅を生んだことによって体が不自由になった母を白梅は必死に看病していたが容態が悪化し、一人で稼ぐにも限界があった。
 半年と少し前、母を助けてくれ、と門前で泣いている白梅を憐れみ、雪華様が孫麗の助手として働くことを許してくださった。
「白梅、これを」
 そう言って雪華様は引き出しから宝飾があしらわれた綺麗な簪を取り出し、白梅に手渡した。白梅は何も言わず、ただ深く頭を下げそれを受け取る。
 雪華様はなにかと口実をつけ、白梅に装飾品を与え、白梅は町でそれらを売りに出し、得た貨幣を母の看病に当てている。
 宮内のものを外へ出すことは禁じられており、知れば白梅も、雪華様も罰せられる可能性もあるので、私たちだけの秘密だ。
「孫麗にも」
 そう言って、雪華様は透明な石の耳飾りを差し出した。
「これがあなたを守ってくれます」
 孫麗はそれを手に取ると優しい温かさを感じた。耳飾りをよく見ると琥珀のように、透明な石の中には不思議な光が満ちていた。
 孫麗もまた深く頭を下げ、官女の身分で耳飾りはつけることはできないので、袖にしまった。
 心優しい雪華様がいなくなってしまうなんて……。
 考えただけで寂しく、苦しく、心が塞がっていく。
 白梅も同じ気持ちなのか、目が潤んでいる。
 そんな白梅の目尻から涙をそっとぬぐい、雪華様は笑う。
「あなたたちは本当の姉妹のよう。そして、私の子どものように思っています。二人とも、助け合って生きていくのですよ」
「はい」
 鈍色の陽光が襖越しに妃様を淡く照らす。
 襖を開けると冷たい空気が部屋の中を一周する。
 近頃は曇りが続いている。厚ぼったく、重たい雲が都の空を覆い、太陽は隠れ、かといって雨も降らない。
 朝日殿の輝きが遠い昔のようだ。
 町では作物も育たず、気温の低下により、体調を崩すものも多いと聞く。
 国全体がひどく落ち込んでいるようだ、と曇天を見上げながら孫麗はため息をついた。
 すると突然、野太い声が宮内に轟いた。
「皇子が帰られたぞー!」
 雪華様から様子を見てくるように言われ、孫麗は音を立てないように走る。
 雪華様は自身の部屋から出ることはない。理由はわからないがある頃に大后様から言い渡され、以来病に伏す王の元へ伺うこともできていない。