宮廷の中央に位置する、祭事を執り行う宝爛殿。
 高い位置にある玉座に浩宇王が腰掛け、目下には百官がずらりと並んでいる。今は朝議の真っ最中だ。しかし百官たちは浩宇王へ意見を求めない。
 現在、国の政を取り仕切るのは浩宇王が座る玉座のさらに上、御簾の裏に座る大后様である。
 立派な玉座の肘掛をひとなでし、浩宇王は考えていた。
ーー私はいつになったら王になれるのか。このままでは正しい王どころか、ただのお飾りに過ぎない。
 苛立つ浩宇王をよそに朝議は進む。しかし朝議の内容はここ一ヶ月代わりがない。
 作物の不足。
 流行病の蔓延。
 それに伴い、民の国に対する不満の声が上がっていることなどが主だ。百官が報告書を読み上げるにつれ、大后様の声色もだんだんと不機嫌になっていく。
「他に何か報告することはないのか!」
 宦官の一人が恐る恐るといった声色で話しはじめる。
「妖についてですが、道士を各地へ派遣しておりますが退治が間に合っておらず、また取り憑かれたものを入れる牢がいっぱいになりつつありまして……、あるところでは妖の力を使い人々を惑わす淫祠邪教の類も台頭しつつあるとかで。いかがなさいましょう、大后様」
 浩宇王は眉をピクリと震わせる。
「なぜ私には聞かない」
 宦官がどもり、他の百官たちも口ごもる。すると後ろから大后様が声を出した。
「あなたはまだ王としての経験も浅い。ですから」
「ここで座っていれば、王としての経験は得られるのですか?」
「では妖に対し、王はどうされるおつもりですか?」
「それは……」
 町では妖が頻繁に現れるようになり国中の道士たちに出動命令を下し、日々祓うようにしている。
 しかし実情は道士の数が足りておらず、誰が妖で、誰が人かの区別がつかない民の間で吊るし上げや、争いが頻繁に起こり、町には妖が生まれる原因である畏れが充満している。
 畏れがあって妖が生まれたのか。
 妖があって畏れが生まれたのか。
 浩宇王は明確な解決策を提示できないまま、再び玉座に座った。
「妖を一匹残らず祓いなさい。そして淫祠邪教の主導者、並びに妖に取り憑かれたものたちも処刑しなさい」
 大后様の一声で、本日の朝議は終了した。

 そんなことはつゆ知らず、孫麗は今日も明るく勤めた。