「私はまだ外の街より帰って日が浅く、身体の中に流行病の菌を持っているやもしれません。浩宇王に伝染るようなことがあってはいけません。ですので……」
 王からの寵愛を断るなど、ありえないことだ。
 殺されても仕方ないが、体温のない孫麗の体に触れられると浩宇王に自分が殭屍であることがわかってしまう。
 孫麗はどんな仕打ちをされるかと身構えたが浩宇王は再び小さく噴き出した。
「孫麗、お前は優しいな。雪華様によく似ている」
「とんでもございません」
「お前の心遣い、感謝する。ならばここで、私と共に月を見てくれないか」
 浩宇王は柵に手をかけ、空を見上げた。厚い雲の切れ間に月が覗く。
「ここからなら、木に登らずともよく見えるだろう」
 言葉の意味がわからず、首をかしげるも孫麗はすぐに理解した。
「ひ、昼間の、見ていたのですか?!」
 淡月色に照らされた、悪戯っぽく笑う浩宇王を見て孫麗は顔から火が出そうなほど真っ赤になった。
 そんな二人の様子を柱の陰から見つめる青く輝く二つの眼に孫麗は気がついていなかった。