登る太陽の光を浴びると朱色に塗られた柱は照り、黄金の瓦の輝きはそこに住むものたちに一日のはじまりを告げる。
 王宮の最東に位置する建物の名前は朝日殿。
 皇女たちが住まう後宮である。

「白梅、紅をとってちょうだい」
「かしこまりました。お姉さま」
 侍女、白梅から器に入った紅を受け取り、陽孫麗は手の甲に一塗りし、発色を確かめ、雪華様の唇へそっと塗りこむ。雪華様のぷっくりとした柔らかい唇の感触が筆の先から伝わってくる。
 皇女である雪華様が美しくなる様をまじかで見られることは、孫麗が官女として働く大きな喜びだった。
 顔を上げるとべっ甲の櫛で髪を梳かす白梅が羨ましそうに孫麗を見ていた。
「私はいつになったら化粧をさせていただけるのですか?」
「雪華様の前でやめなさい。申し訳ございません」
「いいのよ、孫麗」
 雪華様は鏡越しに白梅を見つめる。
「白梅、あなたの髪の結い方は孫麗より手際も良く、仕上がりも美しいわ」
「ありがとうございます。お褒めに預かり、光栄でございます」
 確かに白梅は手先が器用で髪を結う才がある。今も雪華様に褒められ、顔はだらしなく緩んでいるが指の先では丁寧に髪を織り込んでいる。
「孫麗が皇女になったら、あなたが孫麗の化粧係をやりなさい」
「そんな、私が皇女だなんて……」
「大変悲しいことですが、王もそう長くはないでしょう。そうなれば私はここを出ていくことになります」
 現在、王は病に伏している。
 巷でも流行りつつあると言われるものであり、侍医にも原因がわからず、今はただ、苦しみを和らげ、命を長引かせているに過ぎない。
 王が崩御すると後宮に住まう皇女のうち、子どもがいないものは出ていく決まりになっている。
 雪華様は子を授かることができなかった。
 数年前、孫麗は官女として後宮に入った頃から雪華様のお世話係をしていた。なにもわからず失敗ばかりだった孫麗が今も雪華様に支えさせていただけているのは、ひとえに雪華様の寛大なお心ゆえだ。
 雪華様は後宮に住まう皇女様の中でもひときわ優しく、人を陥れるような真似をしない。
 雪華様の瞳は常に慈愛に満ちている、とひたいに花鈿を描きながら孫麗は思う。
「白梅、故郷の母はお元気ですか?」
「健全とは言えませんが、なんとか」
「そうですか」