私はホースを蛇口に繋ぎ、水をまいた。

キラキラとした水滴は、それらの上にも降りかかる。

今日はまだ出来ていなかった気温と生育状況をスマホに入力したら、更新日時から私がここにいたという確実なアリバイが出来てしまったじゃないか。

ジャガイモの緑の葉は揺れている。

それでもシラを切り通すことが出来る?

「なぁ……」

振り返ると、彼が立っていた。

白い肌に茶色い髪が光に透ける。

「それ、どうすんの?」

指を差す足元には、手首が転がっている。

どうするのかと聞かれても、どうしようもない。

「知ってたんだ」

「まぁな」

「もしかして本間くんの仕業?」

「ちげーよ!」

目の前にいる色素の薄い彼は、混乱したまま一生懸命に言葉を探している。

犯人はあんたじゃない。

知ってますよ。

あんな繊細なメロディーを神経質に弾くあなたが、こんなこと出来るわけがない。

「私だって違うし。犯人を知ってるんじゃないかって、思っただけ」

私とほとんど背の変わらない彼が、隣に並んで見下ろしている。

そっと口を開いた。

「埋める? あのカラスみたいに」

「知ってたの?」

「俺さ、音が見えるんだ」

知ってる。共感覚。感覚刺激の混線。

聞いた音に色がついて見えるらしい。

彼はごく一部の人間にみられる、特殊能力の持ち主だ。

「その音が響いている間は、耳に聞こえなくても、色でしばらくは残ってる。今朝、コレが置かれたのは、あんたが来る直前だった。あんたとは違う足音が聞こえて、何かを置いて去って行った。人の足音じゃない。たぶん猫かなにかだ。音が猫に似てたから……」

「猫?」

「たぶん」

目と目が合う。

そんなことを言われて、たとえこれが本当に猫の仕業だったとしても、もし本当にそうだったとしても、この手首の始末をどうするかには、意味がない。

緩やかに変色の始まっているそれを見下ろす。

「で、どうする?」

「埋めれば?」

私は普通にそう言い放った、真っ白な顔をのぞき込んだ。

「いろいろ巻き込まれるのも、面倒くさいし」

同意。

倉庫から熊手とスコップを取り出し、カラスの隣に穴を掘った。

校舎から騒ぎ声が聞こえてくる。

誰もが遠くの空を指し、ピンクの光がどうのこうのと騒いでいる。

私たちはその足元でこっそり穴を掘り、見知らぬ誰かの手首を埋める。

「世界、本当に滅んでんのかな」

「そんなの、確かめようがないじゃない」

そう言ったら、彼は笑った。

「だよな」

チャイムがなる。

教室に戻る。

午後からの授業はいつものようにまったりとして、いい感じにだるくって、エアコンの心地よい風がふんわりと吹き付けていた。