「なに?」

「え……、えっと……」

 本当に、この窓が開くとは思ってもいなかった。

もちろん開閉可能なことは知っていたけれども、私にとってこれは常に開かれざる窓でしかなかった。

上からじっと見つめられているのに恥ずかしくなって、目線を落とす。

「あ、あのね、今そこの菜園に……」

ガラガラと、校舎の中から扉の開く音が聞こえた。

彼は振り向く。

小さな足音が聞こえて、誰かが何かを話しかけた。

「本間くん。あ、ゴメン。今、ちょっといいかな?」

「……いいよ」

窓から彼の姿は消える。

中の様子は分からない。

私はただ、いつもと変わらない見慣れた校舎の壁を見上げている。

「あ、あのさ……。私、ずっと本間くんのことが好きで……。よかったら、付き合ってください」

「……。うん、分かった。いいよ」

思い出した。

私は動物の死骸を必要としていた。

土とは、岩石の粉や欠片から出来ているんじゃない。

そこに有機物が混ざってこそ、本物の土となる。

つまりそこには、このカラスは必要なものだった。

死んで役に立つのなら、それで本望じゃない? 

細かく砕けた岩や砂に、雑菌が住み着き、苔やキノコが生え、植物や動物の死が混じる。

するとやがてそれは、栄養豊富な腐葉土へと変わる。

そうやって出来た土から、花や木はすくすくと育ち、生き物の餌になる。だからいつだって、死体は必要な存在なのだ。

穴を掘った。

カラスを一羽埋めるような穴だ。

簡単に掘れる。

私はその穴をジャガイモ畑ではなく、ツツジの根元に掘った。

校内のこんな場末に植えられた、誰に見られることもないツツジだ。

今が盛りと咲き誇っていても、特段珍しくもないピンクの花だ。

これをここに植えた人間は、何を思ってこんなところに植えたのか。

ツツジはここがどんな場所か意味も分からず、無駄に咲いている。

くるくる高い声で笑う、たった今出来たばかりの彼女の声が聞こえる。

出来たての彼氏は静かにそれに応えた。

真新しい彼女にせがまれて、彼の指が滑り始める。

再び奏で始めたピアノを背景に、私はまた草を摘む。

大きくて立派なジャガイモが育つようにと、願いを込めて。




だって、もうすぐ世界は滅ぶんだよ? 何したって、意味なくない?