「あたし、『抑揚がない』ってよく言われるんだよね」
　初めから最後まで一定のトーン。音の強弱やビブラート（声を震わせるやつ）、ファルセット（裏声）をうまく使いこなせないとか。
「このEDENのヴォーカルの人、表現力が半端ないのよ。ほら、この曲なんて消え入りそうな声かと思ったらサビでバシッと声張って来るし。囁いたり、叫んだり、一つの曲の中でいろんな感情が声だけで表せるなんて。本当尊敬しちゃう」
　３カ月前の無力感はどこへやら。梨歩はEDENを知ってからというもの、水を得た魚のように元気になった。今では、検査や診察の合間を縫って発声練習をしているほど。周囲も、彼女が病人であることをうっかり忘れてしまいそうだ。
「いくら元気でも病人なんだから寝てなさい」と看護師さんに叱られても、「寝ながらだと歌いにくいじゃん」などと言ってはベッドから降りて歌い出す始末。