ブルーヘヴンの彼方に

「まあ、それもそうね。あなたまだ小さかったし、でも……アタシはずっと覚えているわ。だって、とっても素直で可愛かったんだ・も・の」
「ああ、そうですか」
 まったく記憶にございません。可能性として考えられるのは、当時はまだ覚醒していなかったってことくらいだろう。


「アタシの本名は、高科源氏よ」

 記憶を辿る。高科……

 
 その名前には、覚えがあった。
 けれど。

 僕の記憶にある高科源氏さんは、短い髪に白衣姿の、爽やかな男の看護師だったはずだ。

「え…………源氏、さん?」

「そうよぉぉぉ!」

 僕は目の前の人物を、改めて上から下まで見た。

 真っ赤な髪。
 派手なメイク。
 ショートパンツ。
 網タイツ。
 真っ赤なハイヒール。

「…………は?」

 何が、どうして、こうなった?
 
「いや、変わりすぎでしょう。全然見る影もないし」

「何よ、その反応!」
 
 至って正常な反応だと思うけど。一体何が不満なのだろうか。

「流石にここまで変わったら、気づくも何も……同一人物名乗るのも無理があるかと……」

「失礼ね! 綺麗になったと言いなさい!」

「いや、そういう問題じゃなくて」

 もう何が何だかわからない。
 これは、本来なら感動の再会シーンになるところではなかったのか。
 最早グダグダすぎて、全くそんな雰囲気ではない。

「姐さん、昔は爽やかな男前だったらしいのよォ。今じゃ見る影もないけど」

 僕は寧ろ、このジェームズの方が何者か気になる。興味はないが。

「見る影もないって何よ! 二人して!」
「少なくとも今より地味だったわ」
「ジェームズ……アンタまで何なのよ! 実はグルね、アンタらッ!」

 いや、僕はジェームズとは初対面だから。できれば出会いたくなかった。
 これは寧ろ事故だ。

 それにしても。

 オカマ二人が何か言い合ってるな。
 逃げるなら今か。


 僕はそっと気づかれないように、店のドアの取っ手に手をかける。

「あ、そうそう。エディ」

 秒で気づかれた。

「ねえ、明日のこの時間から来てね。約束よ」

「いや、まだ働くとは一言も――」

「よろしくね~。まさかあの可愛かったエディと働けるなんて、もう夢のようだわぁ!」


 逃亡失敗。

 まあ、今更他を探すのにも時間が惜しい。それに、時給もそれなりに良さそうだから、まあいいか。もしブラックだったらすぐに他を当たることにしよう。
  ☆