最果ての魔女と失せものたち 三話(最終話)




 こどもは霧の森を駆ける。

 ちかくに本物のオオカミの遠吠えが聴こえる。
 ハチドリが追いかけてきた。

「あなた、エリンのいるところ、わかる? こどもをエリンの村までつれていって」

 大粒の涙が、頬の上をすべって後ろへ吹き散っていく。

 魔女の薬の棚も、本も、字が読めないこどもには、どう使っていいか分からない。
 魔女はオオカミの姿のまま、動かなくなってしまった。

 でもきっと、こどもはエリンの村までたどり着けない。
 まだ“失せもの”を取りもどしていない。
 自分のそれが何だったのかも、わからないままだ。
 あるいは、こどもを“失くした”誰かが、まだ迎えにきてない。

 けれどこどもは、霧をかきわけて森を駆けることしかできない。

 ハチドリがこどもの前を飛ぶ。
 木々をすり抜けて飛ぶ鮮やかな色が、白くかすんで見えなくなりそうだ。

 こどもは涙をぬぐい、必死に駆ける。


 ――すると。

 唐突に森が終わり、木立ちの先に草原がひらけた。
 出られるはずのない、外!

 こどもは足を止めた。
 ハチドリが肩にもどってきて、機械の音を立てて羽をしまう。

 まぶしい。
 木漏れ日の光の帯。
 緑の草の上を風が吹きわたり、野原の花々をくすぐって笑わせている。

 外の世界は、昼間だった。

 はだしのつま先が、太陽の光に白く照っている。
 こどもは足を引っこめた。

「おそとに出られた……。こども、なんで?」

「こども!」
 半ズボンの少年が、草原のむこうから駆けてくる。
 そのうしろには、大勢の大人たちが。

「こども、どうしたんだよっ。おまえ血だらけだ!」
「エリン! おくすり! おくすりちょうだい!」

 エリンは、ようやく追いついてきた大人たちと顔を見合わせた。

「エリンの言ってた、魔女といた迷子だね? よかった。迎えに行くところだったんだよ」

「おくすり……」
 こどもはじりりと足を下げる。

「血まみれじゃないか。どこかケガをしてるのか」

 触られそうになって、こどもは獣のように飛びのいた。
 木立ちの影に入ったこどもの、ギラギラと光る瞳。
 大人たちは怖気づいたように喉を鳴らした。

「おくすりちょうだい。それだけ」
「こども。ケガしてるのは魔女なんだな」
 エリンが大人たちのかわりに、こどもに一歩踏み寄った。
 こどもは震えながらうなずく。

 わかった。
 エリンはそう呟いて、すぐさま踵を返した。