気づかれないように大きく息を吸い込んでから、言葉を紡いでいく。


「わたし、この前クラスのクリスマス会に行ったでしょ。あの日、家に帰ってくる途中にね、緑地公園で起きた殺人事件の被害者達に絡まれたの」


 手を止めたお母さんが静かにトングを置くと、さっきまでの誰かを想う愛おしそうな明るい表情が、みるみるうちに暗く染まっていく。


「……もしかして、緋莉も……いや、まさか」

「え? わたしもってなに? お母さん」

「う……ううん、ごめんなさい、なんでもないの。それで、大丈夫だった? 身体におかしなところはない?」


 お母さんの手がわたしの両腕をぎゅっと掴む。過ぎたこととはいえ、やはり心配させてしまったようだ。すぐに言わなかったことを、今さらながら後悔した。