もっとルカさんのことを知りたい。訊きたいことはたくさんあるはずなのに、変に気を遣ってしまって訊きづらい。

 それからは無言の時間が続き、気づけば家に着いていた。クリスマスのときと同じように、門の前で互いに立ち止まる。


「じゃあな」


 ルカさんの声が背中に響く。いつのまにか雪はすっかり止んでいて、空はところどころで赤く色づき始めていた。


「はい……送ってくれて、ありがとうございました」


 小さなバラの花束に目を落として、ルカさんの顔を見れないまま小さく呟いた。雲間から僅かに夕日が差し込んできて、門にかけたわたしの手を、温かな光が照らす。

 わたしはしてもらうばかりで、なにひとつ返せていない。本当ならお母さんにもいきさつを話して、きちんとお礼をしたい。

 この人は殺人犯でもなければ悪い人でもない。危険な目に遭っていたわたしを助けてくれた人なんだって、胸を張って紹介したい。


「あの!」


 振り向いて、顔を上げて呼びかけた。けれど言葉は虚しく寒空を舞い、わずかに覗く冬茜へと消えていく。

 そこには誰もいない静寂の景色が広がっていた。