他になにか話題がないものか、そう考えて思い出したのはお父さんのことだった。


「実は、亡くなったわたしのお父さんも生前は外国で暮らしていて、たまに帰ってくるときには必ずお花を買ってきたそうです。それがいつもバラだったとか……」


 わたしのお父さんのことなんて興味ないだろうけれど、お父さんの話をすると胸の奥からじわっと切なさが込み上げてきて、わたしはそのまま話し続けた。


「それを聞いてから、お父さんはどんなに素敵な人だったんだろうと、いつも空想するんです。と言っても、わたしはお父さんの顔も知らないんですけどね」

「そうか……」


 短く返すルカさんは、やっぱりどこか寂しそう。


「ある日お母さんに、お父さんはどうして死んじゃったの? って訊いたことがあるんです。だけどお母さんの顔を見て、お母さんだってほんとは辛いのに、わたしにはそれを隠してるんだって気づいたんです。悪いこと訊いちゃったなって反省しました」


 あのときのお母さんの驚いたような傷ついたような顔は、今でも鮮明に思い出すことができる。わたしがお母さんを悲しませてしまったような気がして、幼い記憶に焼きついていた。


「母親にとっては、あんたが心の支えなんだろう」


 そうだとしたら嬉しい。思わず頬が熱を帯びて、誤魔化すように続けた。


「お父さんの住んでた国に行きたくて、海外で暮らしたいって駄々こねたこともありました。お母さん、あのときも困った顔してたなあ。外国での暮らしなんて、未だに想像できないですけどね」


 くすりと笑ってそう言うと、ルカさんは珍しく饒舌に語った。


「世界は不完全で美しい。そして嘘にまみれている。でも、だからこそ手にした居場所が大切に思えるんだ。いつかあんたも母親を連れて世界を旅してみるといい。きっと真実に気づく日がくる」


 その言葉がそれとなくお母さんを気遣ってくれたように思えて、心に響く。初めてルカさんが自分の気持ちを話してくれた気がしてうれしかった。