おそらく皆渡くんはルカさんが殺人犯である可能性を懸念していた。さっきまでの挑発的な態度は、彼なりにそれを見極めようとしていたのかもしれない。


「あんたも帰るのか?」

「え? あ……はい」


 今の耳打ち、聞こえてなかったとは思うけれど、まだルカさんを疑っているようでちょっぴり後ろめたい。


「もう、おつかいも終わったので」

「そうか」


 そう言うと、ルカさんはわたしの家の方角へと歩き始めた。わたしもつられるようにして、その背についていく。湿った空からは相変わらず粉雪が舞い落ちていた。

 胸の前には四本のバラ。右手にはお花屋さんの紙袋。
 さっきまでの恥ずかしさが無くなった代わりに、わたしの意識はルカさんが肩に乗せている大きな花束に向けられていた。

 男の人がこんなふうにバラを持って歩く姿なんて、この人じゃないと、きっと(さま)にならないだろう。


「これからどこか行くんですか?」


 バラの花束の行方が気になる。


「部屋に戻る」


 待ってる人がいるのだろうか? と思ったけれど、なんとなく聞きたくない気がしてわたしはその疑問を飲みこむ。