「礼なんて気にしなくていいと、前にも言ってある」
混沌とする空気を切り裂くようにルカさんが言い放つ。
彼なりの遠慮かもしれないけれど、なんとなく距離を置かれてる気がして、わたしの気持ちは一気に沈んでしまう。
「あんたはよくても、助けてもらったんだから緋莉は気にするんじゃねえの? そういうもんだろ。それとも緋莉を助けるより他に、なにか別の目的でもあったのか?」
皆渡くんの疑うような言葉。でもこれは、わたしの気持ちを汲んでくれているからだ。言い方はちょっときつい気もするけれど。
「そうか、そうだな……。ヒトはそういう生き物だったな」
目を閉じたルカさんは、どこか物思いにふけるような顔で声を漏らす。
「すまなかった……」
「い、いえ、いいんです。こちらこそ気を遣わせてしまってすみません」
この場の空気に、徐々に暗雲が立ち込めてくる。わたしのせいで雰囲気が悪くなってしまったかもしれない。どうしよう、なんだか居心地が悪い。
皆渡くんは特に気にした様子もなく「まあいいけどさ」と言うと、そっとわたしの肩に手を置いた。
「ま、クールだけど悪い奴じゃないみたいだな。お前に気があるってわけでもなさそうだし、大丈夫なんじゃねえの?」
「あ、もしかして皆渡くん……」
一連のやりとりは、皆渡くんなりにルカさんを探っていたのだろうか。
こっそり訊ねようとしたところで皆渡くんは瑞花と共に踵を返すと、「じゃあまた来年なー」と言い残して去っていった。