「ほら」
しばらくしてラッピングされたバラをルカさんが受け取ると、それが目の前に差し出されていた。もう片方の手は紙袋から取り出した花束を肩で担ぐようにして持っている。その姿を見て洋画に出てくる俳優みたいだな、と思う。
「わたしに……ですか?」
凛と咲き誇る大輪のバラ。
何十本とあるうちの四本だけだけれど、相手は超がつくほどのイケメン男性。そんな人に目の前でバラを向けられているだなんて、まるで映画のヒロインにでもなった気分だ。
「他に誰かいるのか?」
ちょっぴり優越感に浸っていると、なんとなく感じてしまう行き交う人々の好奇の目。街中でバラを挟んで男女が向かい合っているのだから、何事かと思うのだろう。
それでもルカさんの表情はなにひとつ変わらない。特別な感情なんて、きっとない。
「あ、ありがとうございます……」
そっと手を伸ばしてバラを受け取る。
「その酒はこれに入れておけ」
続いて差し出されたのは、さっきまでバラの花束が入れられていた、白地で『au soleil』と書かれている紺色のお洒落な紙袋。同じ文字がお店の窓に描かれている。
多分フランス語だ。いつかお母さんと観たサーカスの劇団名にソレイユとカタカナ表記されていたので覚えている。オ ソレイユと読むのだろうか? このお店の名前だろうけれど、意味までは分からない。
でも、料理酒を手に持つわたしを気遣ってくれたのは分かる。そのせいでルカさんはバラの花束を直接手で持って歩くことになるのに。
「すみません……使わせてもらいます。ありがとうございます……」
紙袋を受け取り、料理酒をそこに入れる。小さな花束は胸の前で抱えた。
人から花を貰えるのは、いつだって、誰からだってうれしい。そこに優しさが織り交ぜられていたのだから、この胸の高鳴りは仕方がない。
どこか気品溢れるバラのかぐわしい香りがふわりと漂う。
淡い香りに包まれるような心地よさに身を委ねていると、
「緋莉ぃ!」
ふいに、わたしを呼ぶ声が聞こえた。