「あら、妹さんですか? よく似てらっしゃいますね」

「妹? まさか、そんなのじゃないさ」


 笑顔を向ける店員さんにルカさんが「ありがとう」と返して、紺色の紙袋に入れられた花束を受け取っている。

『そんなのじゃない――』その否定的な言葉が、わたしの心に黒い影を落とした。


「これだけのバラがプレゼント用じゃないだなんて、そんなにバラがお好きなんですか?」


 店員さんはこちらに目もくれずルカさんとの会話を続けている。妹だと思い込んでいるからなのか、わたしの存在は気にされていないらしい。


「これがないと、生きていけないんだ」

「ふふっ、立ち入ったことを聞いてしまいました。よければまた来てくださいね」


 ルカさんの意味深な返答に軽い会釈で応えた店員さんは、すぐに他の男性客に声を掛けられ、その応対を始めた。

 自分用に花束を買う人なんて、性別に拘わらず見たことも聞いたこともない。

 まさか、さっきのは照れ臭さを隠すために咄嗟についた嘘で、ほんとはプロポーズでもするんじゃないだろうか。

 ――冗談じゃない!

 こんな真っ赤な花束もらって結婚しようとか言われて喜ぶ女なんて今時いないでしょ。だって痛すぎるもの!

 ほんと、くだらない。告白だかなんだか知らないけど、こんなんだったらしない方がマシ。大体もっとかわいくラッピングしてもらえばいいのに。女の子の気持ちをこれっぽっちも分かってない。


「それがないと生きてけないなんて、嘘ですよね? ほんとうはプレゼントなんじゃないですか?」


 バラのように鋭い棘を声に纏わせる。わたし、なにを苛々してるんだろう。

 しかしルカさんはその問いに答えず紙袋の中からバラを数本抜き取ると、別の店員さんに声を掛けた。