ふらりと足が動く。たまたま見つけたという偶然に罪悪感が薄れてしまい、ルカさんとの距離がどんどん縮まっていく。


「ルカさんっ」


 呼び止めると、ルカさんは振り向いて目を瞬かせた。
 長くてバサバサのまつ毛が、うっすら紅い瞳をさらに際立たせる。


「また、あんたか」

「買い物してたらたまたまお見かけしたので、その……偶然ですね!」


 どうしよう。咄嗟に声を掛けてしまったものの、なにを話すか全然考えてなかった。こっちから探して呼びかけたくせに『偶然ですね』だなんて、こんなのやっぱりストーカーじゃない。


「買い物? 母親も一緒なのか?」

「いえ、わたしひとりですけど」

「そうか、なら俺から先にひとつ……」

「はい、なんですか?」


 さすが大人の男性だ。会話のリードもバッチリなのだろう。


「街中で人の名を叫ぶな」

「……え?」


 まさか、再会早々怒られるなんて予想だにしなかった。


「す、すみません。こんな人の多いところで見かけるなんて、わたしも驚いたので……つい」


 肩を窄めながらちらりとルカさんに目をくべる。はあっと呆れたような息を吐くルカさんが言葉を続けた。


「あぁ、俺も驚いたよ。真昼間から酒瓶振りまわす女に大声で呼び止められたんだからな。酔っ払ってるのか?」


 そう言いながら、目を細めて視線を下げるルカさん。その先を追いかけてみると、わたしが胸の前で抱えている料理酒の瓶とぶつかる。


「いや、これは! ちがっ……!」


 咄嗟に瓶を背に隠す。

 どうして袋をいらないと言ってしまったんだろう。
 こんな物を直に抱えたまま街中を小走りしてたなんて信じられない。

 それに一見すると確かにお酒の瓶にも見える。
 いや、食塩添加されているだけで一応お酒なんだけど。でももっと本格的な日本酒とか焼酎とかに見えなくもない。

 最悪だ。こんなの女子力ゼロだ。酒瓶を振り回して歩く女子高生なんて、この世のどこにいるんだろう。しかもさっき浅桜くんに見られている。

 あぁ……終わった。