さっきまでの勢いとは裏腹に足が重い。


 やっぱり、もういいや……。


 せっかく偶然浅桜くんに会えたのに、他の人(しかも男性)を追いかけて気を遣わせてしまうなんて、こんなのよくない。

 今からでも浅桜くんを追いかけたい気持ちはあるけれど、ここは自分を戒めるべきだ。

 だから、今日はもう帰ろう。どうせルカさんだって、わたしのお礼なんか期待していないのだから。

 雑踏の中で立ち止まり、踵を返す。冬の冷たい空気を肺いっぱいに溜めてゆっくり吐き出していくと、卑しい感情が空へ溶けて凍てついたみたいに思えて、少しだけ心が軽くなった。

 頭の中で入り交じっていた浅ましい考え。それらを振り落とすようにして顔をあげると、ふと十字路の角の小さな花屋が目に留まる。

 店先に色とりどりの花が並んでいて、見ていると気分が上を向き始めた。
 穏やかな気持ちを取り戻したところで家に向かって歩き始める。すると、お店の中からゆったりとした足取りでひとりの男性が姿を見せた。