会う約束をしてるわけでもない。それなのに小走りで追いかけるなんて、これはもしかするとストーカー行為ではないか、という不安が頭をかすめたが、いつか読んだ小説に出てきたストーカー癖のある主人公に比べれば全然大したことではない。

 自分の好きな小説家の住所を調べあげた上に偶然を装い会いに行って、そのまま強引に相手の家に住み込んでしまった彼女の行動力を、今だけちょっぴり見習わせてもらいたいと思う。

 そういえばスティーブンキングの作品では、小説家がファンに足を切られたこともあったっけ。小説家は大変だ。もしかしてルカさんは作家さんなのかもしれない。それなら合点がいく。

 もちろんわたしは彼の家に住み着くつもりも、監禁して逃げられないように足を斧で叩き切るつもりも毛頭ない。

 ただ助けてもらったお礼をしたいだけ。

 そこに恋だとか愛だとか、ましてや押しかけや監禁みたいな不純で危険な動機が混ざってもいない。

 世間一般的に見ても、なんて律儀で健気な高校生だと感心されるだろう。

 うん、わたしって偉い。