黒いコートに銀色の髪。それに真っ白な肌。窓の向こうで曇り空の下を柳のようにしなやかにゆれる姿が視界に映る。
――え、うそ……。こんなところにいるわけないじゃん。
なんの根拠もない勝手な想像ではあるけれど、あの人は昼間に出歩く人ではないと思い込んでいた。
その姿はすぐに雑踏に消えてしまったけれど、あんなに人目を引く人が彼の他にいるだろうか。
「ルカ……さん?」
一瞬だけどきっと間違いない。この機を逃すといつ会えるかわからない。もしかしたらこれが最後になるかもしれない。彼を追いかけなきゃ!
並んだ時間が無駄になることも構わず、列から抜け出そうとした。だけど、
「あの、お客様。商品を渡してもらえませんか?」
声をしたほうに目をやると、いつの間にかレジに応援が入っていたらしく、わたしの順番はすぐ目の前まで迫っていた。
レジでは商品をスキャンする人と清算する人に分かれていて、スキャンする係の店員さんがわたしに手を差し出している。
条件反射でうっかり商品を渡してしまい、列から抜け出すことができなくなった。動揺しながらもう一度窓の外に目を向けてみたが、既にルカさんの姿は見えない。
せっかく見つけたのに、どうしてこうなるのだろう。だけど歩いていた方角はわかる。走って追いかければまだ見つけられるかもしれない。
スキャンの際に表示された金額を見て小銭を準備する。
前の人の清算が済むと、店員さんの声を遮るように硬貨をトレイに置いた。
「すみません、急いでるので袋もレシートも結構です」
一方的にそう言い放ち店をあとにすると、人の行き交う商店街を控えめに駆け出した。