年末はお母さんと年越しの準備をするのが、毎年の恒例になっている。

 お母さんと料理を作る時間は好きだ。もちろんひとりで作るのも楽しい。食材をこねたり包丁で刻んだりして没頭していると、どんなことでも全部忘れさせてくれるから。

 お母さんがおせちの準備をしている横で、わたしは午前中の買い出しで買ってきた食材を並べた。

 牛肉に焼き豆腐、白菜に長ねぎにしいたけ、それから春菊とえのきと糸こんにゃく。今夜はすき焼きだ。

 糸こんにゃくのアク抜きをしながら材料を切って大皿に盛り付けると、割り下の準備に取り掛かる。醤油にざらめ糖、それに冷蔵庫からバターと醤油漬けにしてあるガーリックを取り出したところで、お母さんの声がわたしを制した。


「緋莉、今日は駄目よ」

「あ、ごめん。つい……」


 慌てて手を引っこめると、お母さんはにこりと笑った。


「いいのよ。わたしこそごめんなさい。でも家族でのお祝い事は、気分だけでもお父さんも一緒がいいの。でも、好き嫌いが多くて困った人だったわ」


 お母さんの笑顔が切なく歪む。お母さんはあまりお父さんの話をしない。
 もう会えないお父さんの事を話すと、わたしが淋しい想いをするかもしれない、とでも考えているのだろうか。その真意はわからない。