名前以外わからないこの人と、このまま別れたらもう二度と会えないかもしれない。

 だったらちゃんと言わなくちゃ。でないときっと、この夜を後悔する。


「あの……」


 静寂がわたし達を包み込み、鼓動が夜の闇に響く。その音を覆い隠すように、門の取っ手を掴む手にぎゅっと力を込めた。


「……また、会えますか?」


 か細くて、少し震えた言葉が冷たい風と共に流れた。