家に着くと、門を背にしてルカさんと向かい合うように振り返る。しかしルカさんの視線はわたしをすり抜けて、庭のほうへと向けられていた。
「四季咲きバラか」
「はい、お母さんが育ててるんです。きっと、お父さんが好きだった花だから」
わたしの言葉にルカさんはなにも答えずに、庭のバラをどこか愛おしそうに見つめている。
「……Crăciun fericit」
「え?」
今、なんて言ったんだろう。多分日本語じゃなかった。でもどこかで聞いたことがある響きだ。
「あの、今なんて……?」
「なんでもない。俺はもう行くよ」
優しく響いたのは、なぜか淋しさを感じさせる言葉。
「送ってくれて、ありがとうございました」
「もう夜は出歩くなよ」
「…………」
踵を返して門に手をかけるけれど、なぜだろう。それ以上手が動かない。
「どうした?」
不思議だ。この人に恋をしたわけじゃない。なのに、このまま離れたくないと思うわたしがいる。