心拍が早鐘を打つ。俯いて胸に手を当てて、軽く深呼吸してからまたゆっくりと視線を上げた。


「あの、昨晩わたしを助けてくれた人……ですよね?」


 銀髪さんは昨夜と同じようにポケットから煙草を取り出して口に咥えると、ゆったりとした動作でジッポで火を付けている。そして、そのまま紫煙を吐き出しながら言った。


「……またこんな時間にここへ来るなんて、今度こそなにかあっても知らないぞ」


 刺々しいけれど優しさを感じる言葉に、警戒心が少しだけ薄れた。気づかれないようにほっと胸を撫で下ろす。


「昨日は助けてくれてありがとうございました。それから、ほんとにすみません。わたしのせいで沢山殴られて……。怪我とか、大丈夫でしたか?」

「あぁ、見てのとおりさ。あいつら図体の割には大したことないんだな。だから殺されるんだ」


 両手を広げて笑みを浮かべる銀髪さん。その言葉にわたしは思わず後ずさる。

 不気味なのはそれだけじゃない。昨日は確かに頭から血を流していた。そのあとも沢山殴られていたのに、傷跡はおろか、痣ひとつないのはなぜだろう?


「巻き込んじゃってすみません。ほんとうにありがとうございました」


 疑惑は沢山湧いてくるけれど、ひとまずお礼の言葉を先行させて深々と頭を下げる。