「いったあ……」
座り込んだまま、想像以上に痛むおしりをさする。痛い……かなり痛い。
手をつく間もなく直におしりから地面へと倒れたのだから無理もないけれど、のたうちまわりたくなる痛さに呻き声が漏れる。
もう……さっきまで誰もいなかったのに、なんでいきなり真後ろに人がいるの?
「すごい音がしたな……」
通せんぼしてきた男が、泣きそうなわたしに失礼な言葉を投げてくる。先に言うべき事はないのだろうか?
「大丈夫か?」
聞き覚えのあるソプラノ気味の声。
男がわたしに向かって細くて白い手を差し伸べている。
警戒したまま目線を上げると、銀色の髪の下に、昨夜と同じ紅い瞳が妖しく光っていた。
「あ……なた、は……」
「どうした? 立てないのか?」
やっぱり昨日助けてくれた人に間違いない。
無事だったことに安堵する反面、いざ顔を合わせると余計な疑いが頭をよぎる。
この人は犯人じゃないと思うけど、その証拠がない。それにここは事件現場のすぐそばだ。いくら助けてもらったとはいえ、簡単に信用するわけにはいかない……ていうか知らない人の、しかも男の人の手なんて握れるはずがない。
差し伸べられた手を掴まずに勢いよく立ち上がる。
だけど――。
「わわっ……!」
おしりの痛みと立ち上がった反動でふらついてしまい、思わずそのまま銀髪さんに寄りかかってしまった。
「大胆だな、近頃の高校生は」
――やだっ! なにこれ、セクハラ!
……いや、この場合わたしが抱きついたことになるのか。
不本意ながら、ふわっと香るバラの匂いに胸の高鳴りを覚えてしまい、慌てて銀髪さんを突き飛ばして離れた。
銀髪さんは「おっと」と声を出して二、三歩後ずさり、整えるように両手で軽く服を払っている。
「忙しないな、あんた」
焦るわたしとは対照的に、彼は彼は軽い笑みを見せた。