でも、わたしがもう一度会いたいと思う理由は、ちゃんとある。

 助けてもらったまま警察に通報もせずに朝を迎えて、目覚めると事件が起きていた。

 彼が事件の被害者じゃなかったとしても、直前にわたしのせいで殺されそうになったのも事実だ。

 その時は助かったけれど、なにかひとつでも違っていれば彼は殺されていたかもしれない。そう考えると胸がざわめくのは当然だと思う。

 あの人はその身を犠牲にしてまでわたしのことを守ってくれた。思い返すと胸の奥に灯る小さな光が、その輝きを強くする。

 だけど万が一これが恋だとしたら、わたしはふたりの人を同時に好きになったということになる。そんなのきっとよくない。


 悶々としたまま車は夜道を軽快に進んでいく。踏切を越えて少し進むと緑地公園沿いの道へ差し掛かった。でも今通っている車道は、事件が起きた場所とは池を挟んで反対側の道路だ。

 それでもやっぱり緑地公園が気になってしまう。

 あれから現場はどうなったんだろう。

 ふと窓から緑地公園に目をやると……。


「あっ!」


 暗闇の奥に昨夜と同じような濃い霧が漂っている。そして、一瞬浮かんだ鮮やかな銀色。


「どうかしたの?」

「い、いえ、なんでもないです」


 あわてて窓から視線を外す。


「さ、着いたよ」


 歩いて三十分ほどの道のりでも車だとあっという間だ。

 結花さんにお礼を告げて家の前で降ろしてもらうと、走り去っていく車を見送った。

 そして車が完全に見えなくなったのを確認すると、わたしは家の門に背を向けて、緑地公園へ向かって走り始めていた。