結局今日の夕食もあまり味がわからなかった。
それでも瑞花のお母さんや結花さんともたくさん話せたし、笑い声が飛び交う中楽しく食事ができたことはうれしい。
「緋莉ちゃん、そろそろ送ってあげるね」
食後のコーヒーを飲み終えた結花さんが立ち上がり、車のキーを取りに自室へと戻っていく。
わたしも瑞花の部屋からコートを取ってきてリビングに戻ると、瑞花が「おみやげだよ」と言って、容器に移し替えたシフォンケーキを手渡してくれた。
「ありがとう。お母さんケーキ大好きだから、きっと喜ぶよ」
包みを受け取ると、結花さんが人差し指で車のキーをくるくるとまわしながら戻ってきた。
「緋莉ちゃん、またおいでね。夜凛子さんにもよろしく伝えて」
エプロン姿の瑞花のお母さんも、玄関まで見送りに来てくれる。夜凛子とはお母さんの名前だ。
瑞花に「またね」と告げて瑞保のお母さんに小さく頭を下げると、わたしは結花さんと宵月家をあとにした。