「ひさしぶりだね、緋莉がうちでごはん食べるの」

「うん、そうだね。お母さんに連絡しとかなくちゃ」


 スマホを取り出し、お母さんのアドレスを呼び出して発信表示をタップした。数秒して『もしもし』と柔らかい声が耳に届く。


「お母さん、もう仕事終わった?」

『えぇ、今は帰りのタクシーなんだけど、家に着くまではもう少しかかりそうね。体調は良くなった?』

「うん、大丈夫だよ。眠ったら楽になった」

『それならよかったわ。夕食に食べたいものはある?』

「それなんだけど、今瑞花の家にお邪魔しててね。夕食ごちそうになってきてもいいかな?」

『もちろんいいわよ。じゃあお母さんもどこかで済ませて帰るわ。遅くなるならあなたもタクシー呼びなさいね』


 瑞花のお母さんとわたしのお母さんは昔から仲がいい。
 たまに瑞花が泊まりに来ることもあるし、こういうことでお母さんがだめと言うことはないけれど、今朝のこともあってか、やはり心配してくれているようだ。


「結花さんが送ってくれるみたいだから、大丈夫だよ」

『それならよかったわ。結花ちゃんにお礼伝えといてね』

「わかった。ありがとうお母さん」

『瑞花ちゃんと、宵月(よいづき)さんにもよろしくね』

「うん、伝えとく」


 電話を切ると、瑞花はスマホのパズルゲームに夢中になっていた。


「瑞花の家族によろしくだって」


 わたしは本棚からファッション誌を取り出して、ぱらぱらとページをめくる。

 瑞花は画面から目を離さずに「んー」と気の抜けた返事をしていた。