冷めた紅茶を喉に流し込むと、コンコンとドアを叩く音が響いて結花さんが顔を覗かせた。
「緋莉ちゃん、もうすぐ十九時だけど夕食どうする?」
慌てて窓の外を見ると陽は完全に落ちていて、まばらな星と眩しい月が夜空を照らしている。
「せっかくだし食べていきなよ」
瑞花もそう言ってくれて嬉しかったが、お母さんも早く帰ると言っていた。おそらくもう帰ってくる頃だろう。
「ありがとう瑞花。でも物騒な事件もあったし、早く帰らなきゃ」
「帰りは送ってあげるから大丈夫だよ。久しぶりだし、緋莉ちゃんも一緒に食べよ」
そういえば結花さんは秋に車の免許を取ったと言っていた。
冬は夜の訪れが早い。昨日あんな事件があった直後にこの暗い中ひとりで帰るのも正直心細い。ここは結花さんの好意に甘えたほうがいいのかもしれない。
「それじゃあ夜道も怖いし、今日は甘えさせてもらおうかな。結花さん、ありがとうございます」
「うんうん、そうしなって。お母さーん! 緋莉ちゃんもごはん食べてくってー!」
結花さんは大きな声を廊下に放つと、「できたら呼ぶね」と言って部屋をあとにした。