「でもさ、家まで送ってもらったことも正直覚えてないんだよね」
「ショックが強すぎて、きっと断片的に忘れちゃってるんだよ」
「そんなことある?」
「脳は嫌なことがあると忘れちゃう様に出来てるんだって。ソースはわたし」
「なにそれ、テキトーじゃん」
胸を張っておどける瑞花に思わず笑みがこぼれる。だけどまたすぐに胸がもやもやするのは、きっと銀髪さんについての不安が払拭できないからだ。この殺人事件に関わりがなかったとしても、あれだけ殴られたのだから無事なはずはない。
「大丈夫? やっぱりまだ心配?」
労るような瑞花の優しい声は、少なからずわたしの心を落ち着かせてくれる。
「ううん……大丈夫。そうだよね、被害者は気の毒だと思うけど、わたしと銀髪さんには関係ないよね」
思考を事件へ戻すと、瑞花のおかげでさっきよりも落ち着いて考えることができた。
まず線の細い銀髪さんがいとも簡単に人を殺せるとは思えない。
そして現場の状況だけで考えれば犯人と被害者との力の差は歴然だった。だとしたら単独犯じゃない可能性だってある。
それにあの場に居なかった女の子も殺されている。わたしを助けてくれた銀髪さんが他の女の子を殺すなんてどう考えてもおかしい。これらを踏まえて考えるとやっぱり銀髪さんは犯人じゃないだろう。