結花さんが部屋をあとにすると、瑞花がティーポットから紅茶を注いでくれた。芳しい香りが疲弊した心に染みる。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 添えられたレモンを紅茶に落としてすぐに取り出し、カップへ口をつける。
 ほのかに酸味の効いた紅茶が喉の奥を通過すると、冷えた体が内臓から温まっていくような気がして、ほうっと息をおとした。


「緋莉、ほんとに大丈夫? なにかあったの?」


 そう訊かれて、恐々と視線をノートパソコンへ移した。


「この事件、なんだけどさ……」


 膝の上で両手をぎゅっと握りしめ、生唾を飲み込みなんとか話し始める。


「殺された人達……わたし、知ってるかもしれない」

「え……?」


 瑞花の表情に影が差した。


「緋莉の……知り合いなの?」

「違うの! そうじゃなくて!」


 遠慮気味に訊ねる態度がわたしを警戒しているように見えて、思わず声が大きくなった。


「昨日の夜、家に帰る途中に緑地公園で四人の男に絡まれたの。もしかして、殺されたのはその人達なんじゃないかと思って……」

「か、絡まれたって、大丈夫だったの? なにもされてない?」

「助けてくれた人がいたから、直接なにかされたりとかはなかったよ。だから今日、浅桜君とも約束通り会うつもりだった。でも駅に行く途中、昨日絡まれた場所でこの事件現場見ちゃって……」

「あぁ、それで気分悪くなったんだね。でも気にすることないじゃん。緋莉がなにかしたわけじゃないんでしょ?」

「それは、そうなんだけど……」

「それより気をつけないとだめだよ。この事件って前と同じで、不可解なことが多いみたいだし」

「……不可解なことって?」

「ネットの情報なんだけど……えっと、現場見たんだよね? 話しても大丈夫?」


 瑞花がわたしを気遣うように眉根を寄せる。

 不可解なことってなんだろう? 犯人がまだ捕まっていないから? それともわたしが絡まれていたのを誰かが見ていて、わたしが犯人だと思われているとか? 逃げ出した女子高生の行方は。とか、そんな噂が立っていたらどうしよう。