……そろそろいいかな。
測ってないけど十分以上は経ったと思う。
弱火にして白ワインを注いだ。
――水気が飛んでしまわないように気をつけなくちゃ。
しばらく蒸し焼きにして、焼き加減を確かめる為に竹串を用意した。
――うまく焼けてますように。
肉の塊に細い牙が突き立たてられたように、竹串がすっと刺さっていく。奥まで刺し込んだところで僅かな抵抗を感じた。
中心にまだ火が通っていないのだろうか。でも焼き色もちゃんと付いてるし蓋をして蒸らせば大丈夫かな。
そう考えて火を止める。
「ねえ、どうしよう皆渡くん。これ直らなかったらお姉ちゃんに怒られちゃうんだけど」
瑞花と皆渡くんはなんとかオーブンが使えないものかと奮闘していたが、どうやら苦戦しているらしい。
このオーブンはお菓子作りが好きな瑞花のお姉さんが買ったものだ。
でもわたしの知る限り、穏やかで朗らかな瑞花のお姉さんはこんなことで怒ったりしない。
せいぜい目を細めて、困ったわねえとか言う程度だろう。
頃合いを見計らいフライパンの蓋を外すと、キッチンを漂うスパイスの香りが一層強くなった。我ながらおいしそうに焼けたと思う。
チキンを解体する為にまな板へと移動させる。これで成功していれば次も同じようにすればいい。
ももの付け根にナイフをいれて、骨を外すように関節のところで切り落とした。ぽろんと落とされた足を見て、なぜかくすりと笑みがこぼれる。
皮はぱりぱりしているけれど断面はちょっと赤いかもしれない。でも十分おいしそうだ。
みんなに振る舞う前に、焼き加減の確認も兼ねて味見をしてみる。赤い部分はあまり気にせず切り身をフォークで口に運んだ。