カメラに向かって「ありがとう」と声をかけてから自動ドアをくぐると、ホテルのようなエントランスを抜け、高層階専用のエレベーターに乗り込み目的階のボタンを押した。
エレベーターを降りるとホールに瑞花が迎えに来てくれていた。
「遅かったね。気分はどう? 体は大丈夫?」
瑞花の顔を見て、強張っていた体からへなへなと力が抜ける。
「うん、ちょっと寝過ぎちゃった。遅くなってごめんね」
「全然いいよ。とりあえず部屋で話そっか」
微笑みながらそう言ってくれる瑞花にわたしも笑顔で返した。
「緋莉ちゃん、いらっしゃい」
家に上がると結花さんが出迎えてくれた。瑞花のお姉さんだ。姉妹だから当たり前だけれど瑞花とよく似ていて、童顔でおっとりとした結花さんは、今日もかわいい。
「結花さん、おじゃまします」
軽く頭を下げていつものように挨拶を交わす。
「紅茶でいい? あっ、今日も作ってるから味見してってね」
「ありがとうございます。結花さんのお菓子、いつも楽しみです」
ゆるくクセのあるモカベージュカラーの髪をグレーのシュシュで留めていて、細身で手足もすらりと長い。そんな結花さんはわたしにとって憧れの女の子だ。わたしもこんなお姉ちゃんが欲しいなと、ちょっぴり羨ましく思う。
それに結花さんはとても優しくて、幼い頃から瑞花と同じようにわたしのことも可愛がってくれている。
だからわたしも、結花さんには甘えやすい。