浅桜くんに返事を送ると、そのまま別のアカウントを呼び出して通話表示をタップした。呼び出しのコールは三度目に途切れた。
『もしもし』
電話越しに聞こえる親友の声が、悲しみと恐怖で冷えた心に穏やかなぬくもりをくれる。
「瑞花、朝からごめん。今日、浅桜くんと会えなくなっちゃった……」
『え、うそ! どうしたの?』
わたしの声がいつもより沈んでいるのを感じ取ったのか、瑞花の心配そうな声が響く。
「ちょっと気分が悪くなっちゃって……」
『もしかして、浅桜くんとなにかあったの?』
そう訊かれて説明をしようと口を開くが、声にならない。
『……緋莉?』
「ごめん瑞花。あとで家に行ってもいい? 瑞花に聞いてほしいことがあるんだけど、今はちょっと、話せないや……」
『もちろんいいよ。気をつけて来てね』
「ありがとう。気分が落ち着いてからお邪魔させてもらうね」
『わたしがそっちに行こうか?』
いつものようにわたしを気遣ってくれる瑞花。その優しさに目頭が熱くなる。瑞花がいてくれてほんとうによかった。
「ううん、大丈夫だよ。クリスマスなのにごめんね」
『なに言ってんの。今日は皆渡くんもバイトだし、わたしも予定無かったから会えるの嬉しいよ。それじゃ、またあとでね』
「あの……瑞花」
『なに? 緋莉』
「いつも……ありがとう」
『急にどうしたの? わたし達いつもお互い様じゃん。いきなり改まらないでよ』
「うん、そうだね……」
『じゃあ、あとでね』
「うん、じゃあね」
そのままスマホを耳に当てていると、プツッと音がして通話が途切れた。
その手をだらりと下げて目を瞑ると、さっき見た光景がまぶたの裏に浮かび上がる。
あれは誰の血だったのだろうか。
考えても分からないけれど、もうニュースでもネットでも取りあげられているに違いない。そう考えると、今度は得体の知れない不安が襲い掛かってくる。
スマホをヘッドボードに置いて枕に顔をうずめると、両手で強く耳を塞いだ。
そうしないと四方の壁や天井、あるいは脳の中から直接『おまえのせいだ』と叫ぶ、誰かも知らない被害者の低くくもった声が聞こえてきそうだった。
わたしは無関係だ……。なにも悪いことはしていないんだから。
そう自分に言い聞かせてみても、一向に収まらない恐怖と不安。そして後悔。
頭の中で自分には関係ないと何度も反芻しているうちに、わたしは深い眠りに落ちた。