お母さんは大学で生科学の教授をしている。

 夕食時にワインを飲んだりすると嬉しそうに仕事の話をしてくれることがあるが、最近は細胞工学の研究室にも頻繁に出入りしていて忙しいと言っていた。

 今は塩基配列の異なる遺伝子について調べているそうだが、なんのことだかわたしにはさっぱりわからない。

 体を引きずるようにして自分の部屋のベッドに潜る。ひとりぼっちだと思うと心細くて、不安が波のように押し寄せてきた。


 ――浅桜くんに、連絡しなくちゃ……。


 スマホを取り出して、重くなった指を動かす。

 画面を見るとメッセージの未読表記があった。絡まれる直前に届いたメッセージだ。昨夜はそのままにして見ていなかった。誰からだったんだろう。


『立華のプレゼント受け取ったんだけど、二次会参加しないんだって? 俺も用があるからついでに送ってやろうか?』


 そういえばプレゼント交換が終わったあと、みんなが直接お礼を言い合っている最中わたしのところへは誰も来なかった。

 浅桜くんの姿ばかり目で追っていたので別にその時はなにも気にならなかったけれど、どうせならその場で言いにきてほしかったなと、今になって思う。

 だってあの通知さえなければ、あんな目に遭わなかったかもしれないのだから……。