自宅に着くと乱暴に門を開けた。

 お母さんが植えた色とりどりのバラの間を走り抜けて玄関ポーチに辿り着くと、震える手を無理矢理かばんに突っ込んで鍵を取り出す。キーホルダーの鈴が小刻みに震えて高い音を鳴らした。


 ――はやく、家に入らなきゃ!


 鍵を掴んで固まった手。身体の震えはさらに勢いを増していく。
 まるで見えないなにかに追われるように、焦れば焦るほど喉の奥から恐怖心がせり上がってきて鍵がささらない。耐え切れずに扉を叩いて叫んだ。


「お母さん! お願い、開けて!」


 すぐに扉が開いて、お母さんが顔を出した。


「あら、忘れ物?」


 首を大きく横に振ると、吐き気を催してトイレへと駆け込む。


「緋莉! どうしたの?」


 慌ててあとを追ってきたお母さんが、背中をさすってくれる。

 扉を開けたまま床に両ひざをつき、地面を染めていた赤黒い血が頭をよぎっては、涙が溢れて何度も吐いた。


「大丈夫? なにかあったの?」


 背中をさすってくれる手からぬくもりが伝わってくると、安心感が込み上げてきて、そのまま声を震わせて伝える。


「り、緑地公園……に、ち……血が……」


 舌が絡まる口からなんとか言葉を吐き出すと、いつも目尻を下げている優しいお母さんの顔が急に険しくなった。


「ニュースになってた事件のことね」

「え、ニュース? こ……公園で、なにがあったの?」

「緋莉は気にしなくていいの。デートは残念だけど、今日はもう家でゆっくりしていなさい。お母さん、仕事で行かなきゃならないところができたの。なるべく早く帰ってくるからね」


 そう言うと、お母さんは慌ただしく家を出る準備を始めた。

 何度も「こんなときにごめんね」というお母さんに気を遣わせないように、なんとか笑顔で見送った