「クリスマスなのになんだか浮かない顔ね。心配事でもあるの?」


 お母さんと朝食を摂っていると、ふいにそう言われて心臓がどきんと跳ねた。


「ううん、そんなことないよ……」


 目を逸らしたまま返事をしても、疑ってくださいと言っているようなものだろうか。


「ねえ、お母さん……。もしもわたしに彼氏ができたら、どう思う?」


 ちょっと恥ずかしいけれど、変な疑いを持たれるよりはいい。これでわたしの態度にも合点がいくだろうし。


「え、うそ、緋莉! 今日ってもしかして、そういう日なの?」


 お母さんの顔がパッと明るくなる。たまに見せるお母さんのこの無邪気な表情が好きだ。


「うん……まあ。だからちょっと、緊張しちゃってさ」

「あら、そうだったの! うまくいったら、お母さんにも紹介してね!」

「いや、まだどうなるかわかんないけど……」

「クリスマスなんだし、きっと大丈夫よ!」

「そうだね、そうだと嬉しいけどね」


 わたしの返答などお構いなしに、その後もお母さんはうれしそうにはしゃいでいた。

 ずっと楽しみにしていた気持ちは、今日弾けるくらいに膨らんでいるはずだった。

 だけど歯を磨いても朝食を食べても、血を流してまでわたしをかばってくれたあの人の存在が、わたしの心の隅にいつまでも居座り続けていた。