家に着くと、優陽が庭を見渡して声をあげた。


「明るいところで見ると、緋莉の家のバラもすごいな」


 普段から見慣れていて気づかなかったけれど、言われてみればこのバラの数は壮観だ。


「お母さんが育ててるの。手入れが大変みたいだけどね」

「そうなんだ、少し観てもいいかな?」

「もちろん。今門開けるね」


 男の子なのに花に興味を持つなんて意外だけど、それならお母さんとも話が合いそうだ。

 門を開けて庭に案内すると、優陽はさも珍しげにひとつひとつのバラに顔を近づけて、匂いを嗅いだり色味を楽しみ始めた。


「綺麗だね。それに良い香りだ。緑地公園にバラ園があるのに家でも育ててるなんて、お母さんはよっぽどバラが好きなんだね」

「お父さんが好きだったからかな。お母さん、今でもお父さんのことを想ってるみたいだから」


 そう言うと、優陽が少し言い難そうに口を開く。


「えっと、もしかして緋莉のお父さんって……」


 そういえば、優陽は知らないんだっけ。


「あ、ごめん。話してなかったよね。わたしのお父さん、わたしが生まれてすぐに外国で亡くなったんだ。わたしはなにも覚えてないんだけどね。写真もないから顔も知らないし」

「そっか。じゃあ色々大変だっただろうな」

「ううん、全然平気。お母さんは優しいし頼りになるし、金銭面もお父さんがすごい額の遺産を残してくれてたみたいなの。お母さんは大学で教授をしてるんだけど、そのおかげで研究を続けられてるみたい」

「へえ、お母さんもすごいな。どんな研究なの?」

「それは――」


 説明する瞬間、ガチャリという音がして家の扉が開いた。