優陽は昨日と同じようにわたしを家まで送ってくれた。
好きな人と肩を並べて下校するだけでこんなにも景色が変わって見えるなんて思いもしなかったけれど、会話の内容はあまり恋人っぽくはない。
「明日は土曜日だし、深夜に張り込もうと思うんだけど、緋莉はどうする?」
「わたしも行く。うちはわたしとお母さんしかいないから、お母さんが寝入ったあとなら大丈夫だよ」
お母さんはよく夜中まで起きているみたいだけど、わたしが部屋に入るのと同じタイミングで寝室か書斎に入る。ふたりにしては無駄に広い家だから、そっと抜け出すことも難しくないだろう。
「なら、夜中の三時に迎えに行くよ。俺が来るまで誰も家に入れちゃ駄目だよ」
お母さんに黙って抜け出すのは後ろめたいけれど、好きな人が夜中にこっそり迎えに来てくれるなんて、物語の世界みたいで素敵だなと思う。
ふと、最近結婚した女性アナウンサーが記者会見で惚気ていたのを思い出す。
大晦日の深夜0時を迎えた瞬間に婚約者からの着信があり、出てみると『除夜の鐘が聞こえない?』と言われ耳を凝らしたが鐘の音は聞こえず、『ここじゃ聞こえないみたい』と返した。すると『窓を開けてみて』と言われて窓を開けたところに彼の姿があったのだと、照れ臭そうに話していた。
それを聞いて以来、わたしも深夜という特別な空間に好きな人が迎えにくるのを密かに夢見ていた。叶いかたが少々物騒ではあるけれど、まあ仕方ない。