しばらくすると、優陽が数冊の本をどんっと机の上に置いてわたしの隣に座った。吸血鬼の起源やヨーロッパの歴史といったマニアックな本が並ぶ。


「午後からは吸血鬼について調べてたんだ。ネットで見つけた資料もプリントアウトしてあるけど、リアルの文献の方がまとまっていて見やすいからね。ここから抽出した資料やデータを基に、ルカが吸血鬼だと仮定してこれまでの行動と照合してみた」


 重なった本の中から優陽が一冊を手に取り、付箋が貼られたページを開く。


「まずヨーロッパには秘密裏に吸血鬼協会という組織があり、そこには現在も数千人の吸血鬼が在籍していると言われている。けれどその血は長い歴史の中で人間と交配し薄れていて、今ではほぼ人と同じ生活をしているそうだ。もちろん血を吸うことなんてしない。少し体温が低かったり、紫外線過敏症だったりはするみたいだけどね」


 積み上がる資料を眺めながらうんうんと頷く。一見すると、わたし達はオカルト研究会とでも思われるのだろう。


「でも冬咲市で起きている事件を吸血鬼の仕業だと仮定すると、犯人は血を吸うタイプの吸血鬼ということになる。じゃあなぜそんな古い吸血鬼が生き残っているのか、それは吸血鬼は人の血を吸い続けていれば基本的に死ぬことがないからだ。だけど吸血鬼としての血が濃い分弱点は多いらしい。陽の光、十字架、それに銀やにんにく、とかね。だから多くの吸血鬼は団結した人間の手によって闇に葬られてきた。仮に今生きている吸血鬼がいるとすれば、人間の目からずっと隠れて生きてきた吸血鬼ってことになる」

「子どもの頃に読むような絵本だか童話だかにも、似たような話があるよね」


 わたしの言葉に、優陽は小さく頷いて続ける。


「そして肝心の血を吸う行為についてだけど、ある程度の周期があるそうだ。満腹感もちゃんとあって、無限に吸い続けられるわけじゃない。それを考慮すると、冬咲市には複数の吸血鬼が存在していてもおかしくないかもしれない。因みに血液の代わりにバラからも生気を得ることができるらしい。これはルカが大量のバラを手にしていたことからも、奴が吸血鬼という可能性を後押ししていると言えるかもしれないね」


 確かに年末ルカさんと偶然会ったときに彼が買っていたバラは、誰かへのプレゼントでは無さそうだった。信じたくないけどルカさんが吸血鬼だとして優陽が調べた情報を当てはめていくと、ある程度辻褄は合ってしまう。